空よ

空よ
空よ
父さんはこれから
２０年後のおまえに
話しかけたいと思う

君が生まれたとき
父さんは母さんのそばにいて
一部始終を見ていた
君は元気がないって
看護婦さんに言われて
急いで出そうということになった
やっと君の頭が出てきて
父さん感動――
――の、はずだったんだけど
すぐさま
流しかけた涙を引っ込めた
だって君の首には
へその緒がぐるぐる巻きついていたから

ひとつ、ふたつ…
おいおい、こりゃ５重巻きだ
先生の、あせりつつも
あきれた、と言わんばかりの苦笑いの中
挙句の果てに
君は腕にまで巻き付けて
身体は全身真っ黒
苦しそうに目をつぶりながら出てきた
やたら動く子だな、とは思っていたんだけれど
実は苦しくてもがいていたんだね
ひやひやしたよ
へその緒をまず
ほどき
切って
看護婦さんに足首を持って逆さまにされ
身体を軽く何度もペンペン
そのあと、小さなベットに寝かされ
やっとあげた産声
父さんは、ずっと忘れない

ちょっと小さめな君は
赤ちゃんの部屋でも
隣りの女の子の泣き声に
びっくりしていつも泣かされていた
そして、その泣き声すらかき消され
まるで父さんの小さな頃と同じ
はじめて抱っこした君は
思ってたより重たかったっけ

退院してきても
いとこにおなかを足で踏まれたりして
あらら
いったいどんな風に育っていくのか
父さんと母さんは
ちょっと心配した
おっぱいをうまく飲めず
びーびー泣いて
ミルクを飲んでは戻し
父さんの肩でゲホッと
これまたへたっぴなゲップをする君
抱いてる腕がとてもあたたかくて
とても小さな君に
父さんはいつもうっとりしていたんだ

君には
空、という名前をつけた
たくさん
人の心の痛みを感じてほしい
道に迷ったり
困っている人がいたら
あたたかく包み込んであげてほしい
そんな
大きな人になってほしくて

君が生まれたとき
新生児室にはたくさんの赤ちゃんがいて
ガラス越しにみんなが
かわいいかわいいと集まっていた
でもね
その部屋の奥には
ずーっと長いこと保育器に入ったままの
そんなお友達がいた
いつもその子たちが
父さんは気がかりだった
その子たちもひとつのいのちなわけで

赤ちゃんをあきらめなければいけない
そんなお母さんもいたし
なかなか赤ちゃんと出会えない
そんな人たちもいる
空よ
君は元気に生まれてきた
そのことだけで感謝しなければね
もちろん
私たち二人も

今社会は必死にもがいている
出口が見えず
ぐちゃぐちゃしている
空よ
君が２０歳になる時には
２０１５年
私たちも４７歳だ
そのとき出口は
はっきり見えているだろうか

大きくなれ
大きくなれ
たくさん笑って
たくさん涙を流して
大きくなれ
大きくなれ
いつか君と
とてつもなく大きな
空を見に行こう
だから、元気で
元気でいよう
もちろん
家族みんなだ
大事にしていくものは
いつも、家族一緒

空よ
生まれてくれてありがとう
父さんと母さんは
今、とても幸せだ
ありがとう
ありがとう――